溜醤油のしょっぱい人生

修士課程中退オタクがくだらないことを書き残すだけのブログです

A study on the mental growth of Shinomiya Karen based on the stereochemistry of citral

邦題:シトラールの立体化学に基づいた篠宮可憐の精神的成長に関する考察

 

0. 要旨

 篠宮可憐は気弱な性格であるが,これを直すためにアイドル活動を行っている.その彼女が歌う"教えてlast note..."は,彼女がステージへ踏み出す姿と心情を,香水の香りの変化に喩えた歌である.本報では,この歌詞中に登場するシトラールに着目し,篠宮可憐に与える影響,歌詞に与える意味についての考察を紹介する.

 

1. 緒言

1-1. 篠宮可憐と"教えてlast note..."

 篠宮可憐とは,「アイドルマスター ミリオンライブ!」(以下 ミリマス)に登場する16歳のアイドルである.派手な外見とは裏腹に,非常に憶病で気弱な性格をしている.彼女がアイドルを目指した理由は,このような気弱な性格を直すため,また,同じような女の子達に自信を与えるためだとされている.

 その彼女がソロ3曲目として与えられたのが"教えてlast note..."である。"last note"とは,彼女の趣味でもあるアロマの用語である.香水をつけた際の最初の香りが"top note",数十分後程度で変化する香りが"middle note",最後に残る余韻が"last note"となる.気弱な自分を変えたいと願う彼女がステージへ踏み出す様とその時の心情を,香りの変化に喩えた歌となっている.

 

1-2. シス-トランス異性体

 ここでは有機化合物の二重結合のシス-トランス異性のみを取り上げる.炭素の二重結合に2つずつの異なる官能基が結合した場合を例にとる.このとき,主鎖(炭素数が最多となる鎖)となる炭素骨格が同じ側についたものをシス(cis)型,反対側についたものをトランス(trans)型と呼ぶ(fig.1).身近な例で言えば,マーガリンなどに含まれており,それによって騒がれているトランス脂肪酸のトランスがこれにあたる.

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fig.1 シス-トランス異性体の例

 

1-3. シトラール

 シトラールはレモングラスなどから採れる精油の主成分である.1組のシス-トランス異性体があり,シス型をネラール(neral),トランス型をゲラニアール(geranial)と呼び分けている(fig.2).ネラールは弱いレモン臭でやや甘みを伴う.一方でゲラニアールは強いレモン臭をもつ.ヒトに清涼感を与えるため香水や香料として用いられる.

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fig.2 シトラールの構造式.ゲラニアール(上)がトランス型,ネラール(下)がシス型であることがわかる.

 

2. 考察

2-1. "教えてlast note..."歌詞中におけるシトラールの役割

 本詞においてシトラールはトップノートとして登場している."軽いレモングラス"であるにもかかわらず可憐に"恋"を思い出させている.しかし,歌詞中に"真っ直ぐ気持ち届け!なんて やっぱり無理よ 自信持てなくて I'll cry"とあるように,可憐に自信を持たせるまでには至っていないことがわかる.サビにおいても,弱い自分から抜け出すために"オリジナルのブレンド"を作ろうとしており、シトラール単体による篠宮可憐への働きかけがかなり小さいものであることが推察される.また,シトラールはアロマとして精神への効能は特にないとされている.

 以上より,歌詞中においてシトラールは篠宮可憐を精神的に強くする働きをしていないことが強く示唆された.

 

2-2. シトラールの立体化学的見地を導入した"教えてlast note..."の歌詞考察

 1-3.においてシトラールにはネラールとゲラニアールという1組の異性体が存在していると述べた.fig.2 に示す通り,シス型のネラールは主鎖が折れ曲がった構造をしていることに対して,トランス型のゲラニアールは主鎖が直鎖状となっている.そこで,著者はこの構造を歌詞考察に導入する手法を考案した.

 はじめに,"恋"を思わせる程の鮮烈な香気であることに触れる.これにより,軽いレモングラスでありながら強い香気を放っていることが考えられる.1-3.で述べたように,強いレモン臭を放つのはゲラニアールである.そのため,このトップノートはゲラニアールが主体となって構成されている可能性が示唆された.

 次に,ゲラニアールの構造を踏まえて1番の歌詞について考察する.ゲラニアールは主鎖が直鎖状,つまりは"真っ直ぐ"である.歌詞中において可憐は真っ直ぐに気持ちを届けられるか自信が持てていないことがわかる.しかしこれは"自信が持てない"だけであり、実際は"真っ直ぐに気持ちを届けられている"ということが,ゲラニアールの構造によって暗に示されていると考えることができる.

 シトラールは"成長できている篠宮可憐"を表す1つの象徴として歌詞中に登場していると考えられる.そして,これを序盤に出すことによって,3曲目を歌う現在の可憐も"まだまだ成長途中である"ということを示していると推察される.

 

4. 結言

 本報では,シトラールの立体化学によって"篠宮可憐が成長している"ことが示されているという可能性を示した.今後ユニット曲やソロ曲の追加などを通して,さらに篠宮可憐が成長していく姿が表現されていくことが期待される.